〜 Dr.Siegel Custom について 〜

 

 

 

 

 ST−314やSTM、STSというミディアムスケールやショートスケールのストラトキャスターの生みの親ともいえる成毛滋氏のシグネーチャーモデルです。基本的にはSTMと同じですが、価格は約120,000円で通常のモデルの2倍近くで販売されました。国産の量産品としては比較的高価な部類ですが、その分通常のSTMよりも丁寧な造りになっていると思います。

 DSCにつきましては詳しく解説されているページがありますので、ここでは仕様については割愛します。今回はリペアでお預かりし多モデルの詳細を見ますと微妙に異なる部分が見受けられましたので気付いた点をまとめてみました。

 

 

§  ネック  §

 

 

 

  ヘッド裏に“Dr.Siegel”の焼印が入っている以外は通常のSTMとほぼ同じです。スカンクラインが入っていてヘッド側からダボ風になっている部分から6角レンチでロッドを調整できるタイプでこれはST−314以降の基本仕様ともいえます。その他ペグやフレット、指板のポジションマークは同一ですが、サイドポジションは一般的な2パイでSTMより少し大型で見やすくなっています。また指板Rは御本人と同様に305Rが採用されています。ちなみにSTM等はスケール以外をギブソン系にすることを避けたのか、フェンダー製品として規格を統一してブランドイメージを保持する意図があったのか、成毛先生の仕様ではなく250Rで製作されています。

 

ヘッドトップはストリングガイドがグレードアップされて裏面には“Dr.Siegel”の焼印があります。

 

 グリップ厚は、STMも2スタッドトレモロになってからは薄いグリップのものが多いのですが、DSCは木地の状態で1フレットで19mm、12フレットで20mmで製作されています。フェンダージャパンの’90年のカタログにはSTMのグリップ厚は1フレットで19.5mmと記載されていますし、私が所有している6点シンクロのSTMは木地でも1フレットで19.5mm、12フレットで21.0mm程度の感じです。お預かりしたDSCを計測すると塗装上で1フレットが19.4mmで12フレットで20.5mmでした。

 グリップ厚がDSCとSTMに違いがったのかは不明ですがグリップ形状はSTMやSTSと比較するとより丸くサイド部分がスッキリしている印象で、少なくとも私が見た数本は通常のSTM等より丁寧にグリップを形成しているように思えました。基本的には価格差によって時間をかけられた事が大きいと思えますが、少なくともこの厚みでこの感じの形状で仕上げるにはそれなりの技量と時間が必要だと思います。

 幅はナット部分が40mmで22フレットで54mmです。ST−314からSTMのトレモロは10.5mmピッチでDSCは10mmピッチトレモロを搭載していますが、ブリッジの弦間ピッチの変動によって指板の幅を変化させてはいません。その分の指板サイドの余裕はエッジの処理に充てられている印象で、エッジ部分が大きく面取りされているようです。また、ストリングガイドが波型からグレードの高いものに変更されています。

 

 

§  ボディ  §

 

 

 

 ボディも基本的にはSTMと同じです。同型のミディアムスケールサイズに縮小されたボディで、全く同じ仕様で価格差の分仕上がりのクォリティが高いだけだと考えていたのですがお預かりしてばらして詳細を見て全く別に製作されたものだと思いました。ボディトップで目に付くのはまずトレモロのアップリセスザグリの違いです。このモデルは10mmピッチのトレモロが取り付けられているのですが、ベースプレートの形状はヴィンテージのシンクロと同じ形状でSTMと同じなので同様だと思っていたのですが、全く別のザグリになっていました。

 通常のSTMやSTSはベースプレートとスタッド部分全体がベースプレートの厚み程度同じ深さで加工されていました。そのためスタッド部分もリセスザグリと同様になっている為にスタッドの組み込みやリセス加工の段階でボディ裏のスプリング部分のザグリに貫通しているものも少なくありません。STMシリーズは裏パネルを落とし込んでいるためこの部分のスペースがとてもタイトなのでセッティングによってはスプリングがザグリに干渉する問題もあります。

 DSCの場合はアームアップした際に当たるエンド部分だけにリセスザグリが加工されていてザグリ自体もベースプレートの傾きに合わせて斜めにザグられています。当工房のアップリセスをご覧になってこのザグリの真似をしたと思われている方もいらっしゃったかもしれませんが、逆に当工房のモデル以前に同じデザインのリセスザグリがあったことを知り少しショックでもあり、自身のデザインに自信も持てました。更にショッキング?だった事はサドルのビスの頭に合わせてエンド部分が加工されていたことでここまで同じだと製作時期から考えてもこのモデルのコピーと言われても仕方がないと思いました。もっとも、当工房のアップリセスはご希望が無い限りはビス部分の加工は省いています。

 

10mmピッチです。 段差ではなく斜めに加工されています。

 

  ピックガードを外すと弁当箱でもHSHでもなくピックアップ配列と同じSSHのザグリに加工されていました。ST−314に近いですが314の場合はSSHと3Sの2つのタイプがあってミドルピックアップの位置が異なるので兼用の為少しザグリが大きくなっているようです。(最近314のSSHバージョンのピックガードの製作のご依頼をいただいて気付きました)DSCは見た目SSHのワンバージョンなのでザグリの配列も専用になっています。

 STMシリーズには無い仕様ですが、ザグリには導電塗料が塗られています。コントロールザグリ部分にはアルミのシールが貼ってありピックガードのアルミシールと接するようになっています。ハムキャンセル機能をフロントピックアップに追加されているのでノイズ対策をしているのだと思います。もちろんSTMと共通のフロントピックアップとして使う場合にも有効です。そのあたりの配慮はピックガードを見ても窺えますが、そちらについては後ほどご紹介いたします。

 

 

SSHザグリで導電塗料が塗られています。 アルミシールが貼られています

 

 STM以降のモデルはラウンド・カット・ヒールと呼ばれるジョイントプレートのネック側を丸くカットしてその部分のネックポケットのジョイント部分を削る加工が標準となっていますが、このモデルの場合は落し込み加工がされています。トレモロ裏パネルのように完全にプレートと同じ形状の段差では無くてネック側はそのままネック側のエンドに繋がっています。

  プレートの厚み分だけですから演奏性自体は通常のラウンド・カット・ヒールとそれ程変わらない様に思いますが、高級感は増すように思います。実はこのリセス加工は、DSCで初めて見るものではなくてオーダーでお預かりしているボディにも施されていました。興味深いのは6点シンクロに弁当箱ザグリのモデルだった事で、私が所有している6点シンクロのモデルにはなされていなくて、リペア等でお預かりした同型のモデルでもなくて唯一加工がされているのですが、リフィニッシュの形跡もなくて明らかにオリジナルの仕様です。

 ポリ系の塗装の場合はこの程度の段差は下地から磨きの段階で手を加えないと塗料で埋まってしまいジョイントプレートが収まらなかったり縁にたまった塗料が組み込みの際に割れたりしてトラブルが多い上に手間が掛かるので省略されたと考えられますので、ごく初期のロッドに見られるのではないかと予想しています。STMの価格で販売されている量産品ではマスキングしたり時間をかけて磨いたりすることは不可能です。

 DSCは価格もワンランク上ですので工場での手間もSTMよりは数段かけられますし限定品ですので落し込み加工を復活させた感じだと思います。いずれにしましても、STMのデーターをそのまま流用して製作したのではなくて、ボディ外周以外の多くの部分を専用のプログラムで製作されたものだと考えられます。実際のところは不明なので想像の域を全く超えない推測に過ぎませんが、ボディ自体の磨きも量産品としては丁寧で、仕上がり自体もワンランク上の印象がします。

 

 

§  ピックガード・配線等  §

 

 

 DSCの最大の特徴ともいえるのはミドルPUをダミーとしてフロントピックアップのノイズキャンセルのコイルにしている事です。プッシュ・プルスイッチつきのポットでノイズシャンセル無しの音も選択できるところに拘りを感じます。構造としてはタップスイッチと同じです。フロントはSTMと同じHOTROD-5Sですが、リアピックアップはDRAGSTERではなくディマジオのパフです。DSC2になってからはスタックタイプのピックアップを搭載した結果不要になったのでダミーになっているようです。

 上の画像はミドルのダミーPUですが、HOTROD-5Sのポールピースと磁石を外したものでポールピースの変わりにアクリル棒が入れられています。音の変化等があり試行錯誤の結果このスタイルに落ち着いたとの事ですが、ポールピース部分がクリアーでガラスっぽい素材なので独特のルックスになっています。

 Guitar Graphic 第7号の記事によると成毛先生はハムバッカーPU搭載の場合はピックガードを黒にすると決めていらっしゃったとの事で当然S(S)H構成のDSCは黒いピックガードが装着されています。これについてはSTMシリーズも一貫してその様になっていた様におもいます。通常はコントロール部分のみですが、このモデルはピックガード全体にアルミシートが貼られています。

DSCのピックガードです。

 STMのピックガードはロッド等により数種類あると思いますが、こちらも専用のピックガードです。面取り部分は角度が浅いものが多いですがこれはノーマルのストラトに近い印象です。ヴォリュームの位置が独特でSTM−600とも微妙に違う気がします。

 ポットやスイッチ類は基本的にはSTMと同じですが、トーンにプッシュ−プルスイッチ付きのものになっていてハムバッカーのタップスイッチの様にミドルのコイルかアースの切り替えになっています。明らかにノイズのレベルが変化します。SHの切り替えた際のノイズのレベル差を少なくすると共にノーマルのシングルコイルの音も残したあたりに拘りを感じます。

 

 

 生産中止の頃のSTMとの価格差は50,000円程度と思いますが、個人的にはそれ以上のグレードの差を感じます。今回お預かりして詳細を見た印象では明らかにSTMより手間がかけられている印象です。グリップの形状は特殊なカッターの恩恵かもしれませんが、それにしてもこれだけの薄いネックで丸く仕上げられているだけでも十分に価値のあるものだと思えます。

  例によりまして誤り等ありましたら掲示板等でご指摘いただければ幸いです。また不適切な内容等やお気付きの点等ありましたらお知らせください。

2008.5.18 更新