〜 カスタムオーダーによるフロイドローズ搭載モデル 〜

 

 

 ショップオーダーかショップ経由の個人のオーダーと思われるSTMのリペアをうけたまわりました。フロイドローズ搭載ですが、STM−85の基本仕様とは随分と異なり非常に興味深かったので、ご依頼主にお許しを頂き記事にさせていただきました。

 シリアルから’91〜’92年製のようです。先にご紹介したSTSのジミヘンモデル同様にセミオーダーシステムでの製作で、さらにはこちらもイケベ楽器によるもののようです。まず目を引くのはゴールドーパーツである事ですが、ネック、ボディをそれぞれ通常のSTMと比較してみます。

 

§ ネック §

 

 

 グリップ形状やナット幅等は、STMの基本仕様と同じです。ロッドの仕込もナットはヘッドから仕込まれてダボのような感じになっていてそこから5mmの6角レンチで調整します。ポケット側のロッドのエンドは2cmくらいの円柱になっていて、ティルトのイモネジを受けるようになっているのも314からの特徴です。

 ヘッド裏にはカスタム エディションのロゴがあります。ドットポジションは5パイドットで通常のSTMと同様です。同時期のカタログを見るとフロイドローズU搭載の後期モデルでもポジションは5パイでした。先にご紹介したSTM−85はシリアルからほぼ同時期のモデルなので謎です。フレットはノーマル(細)フレットなのでフロイドローズモデルはそれが基本仕様なのかもしれません。

 当時のフェンダージャパンのカタログにはフロイドローズも掲載されていてゴールドのR6も単体で販売されていましたので、カスタムオーダーでの選択も可能だったと思われます。ペグは通常と同じくゴトー製ですが、ノブはパール柄のもので品番も異なります。ただ基本的な形状が同じでビス穴の位置も変わらないのでオリジナルなのかは不明です。

 塗装もSTMシリーズの基本仕様でシリアルもポケット近くに転写でMADE IN JAPANの下にあります。ヘッド裏にCUSTOM EDITIONのロゴが入っている他ポケットには通常見られる品番のスタンプではなく手書きでロッドナンバーや品番と思しきものや仕様が記入されています。

 “KA−178”と読めますが、’92年のカタログではSTM−85で85,000円ですから定価は178,000円と言う事でしょうか。KAが何なのかは私には判りません。個人のオーダーであるとすればオーナーのイニシャルでしょうか。

 仕上がり自体は通常のラインのSTMとそれ程変わらない感じですが、工場の量産ラインに特注品を入れて流す事は手間なので、価格設定としてはそんなものだったのかもしれません。ネックに関しては、ヘッド裏のロゴがある事とネックポケットの手書きで仕様が記載されている程度で通常のSTMのネックと殆ど変わりません。品番はともかくネックは紛れも無くSTMそのものです。

ヘッドの長さが少し違います。

 調整のためお預かりしているSTM−85と比較してみると若干ヘッドが長いようです。ロックナットを取り付けるネックを製作する場合、違和感をなくすようにナットの長さ分を調整してヘッドを加工する事があります。多少はヘッドの長さにも個体差があるので断言はできませんが、STM−85は通常のSTMと同じ長さなので、セミオーダーと言う事を考慮すると意図的に調整したと考えられます。また、長くする事で6弦のペグからナットにかけてのラインが自然に繋がるので手で加工する手間も省けます。

 

 §  ボディ・パーツ等  §

 

 

 ボディ形状そのものはSTM−85と全く同じです。外観の変更点はゴールドパーツである事とHSHのピックアップのレイアウト、パール柄のピックガードです。ジョイントプレートもゴールドですが、この時期はSTRシリーズも販売されておりそちらにはゴールドパーツの製品もあったので流用したものと思われます。いずれにしましてもピックアップやレバースイッチのネジ類も全てゴールドパーツです。

 ブリッジはフロイドローズUではなくオリジナルが取り付けられていますが、リセスザグリの形状がフロイドローズUのものなので、元々はオリジナルでない事も考えられます。この時期のフロイドローズUはトラブルも多いのですが、フレット等をみるとそれ程使われていないようですので当初からオリジナルが搭載されていた可能性もあります。ただ、STRではフロイドローズオリジナル搭載モデルもあったので、セミオーダーでブリッジを変更していればリセスの形状も合わせるのが普通だと思います。

 ピックガードは最近のものとは少々異なりますがパール柄です。量産された感じではないので工場で製造本数だけ製作されたものか後に交換したものかは不明です。HSHの配列はSTM‐650と同じですが、フロントPUが通常のSTMの位置になっています。その他コントロールの位置は基本仕様ですが、ノブは通常ドームノブなのでこれも交換したものかカスタムオーダーで選択したものかは不明です。

 

リセスザグリはフロイドローズUの形状です。

 

 ノブはヴォリューム・トーンになっていますが、配線は2ヴォリュームでマスターヴォリュームとフロントヴォリュームでトーンコントロールはありません。レバースイッチは5Wayでハーフトーンではフロントとリアがタップになる様に配線されています。ポットやスイッチ等のパーツ構成は通常のSTMと同じです。ミドルPUも通常のSTM同様、HOTROD−5Sというフェライトマグネットタイプのシングルコイルです。

  ネックポケットには、やはり手書きで書き込まれていますが、こちらには何故かSTM−163とあります。同仕様で複数のオーダーがあったのでしょうか。“ポリ”と書き込まれているのですが、カスタムエディションのラインば別にあったのかもしれません。カタログにあるカスタムエディションのエクストラッドシリーズはラッカー仕上げでしたのでそれとの区別の為と思われます。

 まだリフィニッシュの作業に取り掛かっていないのですが、ポケットから見える杢は重量から考えると恐らくライトアッシュです。ハムバッカーは何れもS・ダンカン製でしたが、お預かりして最初に音をチェックした時はディマジオのような印象でした。アルダーやバスウッド系のと考えてイメージした音の印象だったのですが、アッシュ材のために高域が抜けていた為と思われます。

 右上の画像はシャーラー製のフロイドローズを置いてみたものですが、ぴったりです。左のオリジナルは形状があっていないのが判ると思います。ザグリの形状は後期のHSHでボディ材以外は通常のものと変わりありません。フロイドローズタイプ搭載モデルの特徴である1弦側のカッタウエィがカットされているのも同様です。

 裏パネルは一般的な穴のないフロイドローズ用のものでした。こちらは量産品のようで、ピックガードに合わせてパール柄で製作されたものではありません。セミオーダーシステムではそこまでは配慮されなかったのか、ピックガードがオリジナルでないのかは判断できません。

 ボディの塗装も通常のSTMと変わらない印象です。この頃はまだ塗装が比較的薄いので、ツブシながらアッシュ材らしい木目が塗装のヤセからうかがうことができます。それでもエッジ付近はやや角張っていて量産品らしい印象です。

 価格は通常の2倍以上になりますが、STMやSTSのような特殊な仕様のモデルでも好みを指定して量産品をベースとしてギターをセミオーダーできるシステムは魅力的だと思います。基本仕様をSTMにしてカスタムオーダーする事を考えると決して高いものではないと思います。

 

 STMやSTSをセミオーダー出来た時期もあった事は、両モデル共カタログから落ちてしまった現在からすると夢のような話です。’90年頃は何故か各社からミディアムスケールのギターが数多く発表されています。すぐにラインアップから無くなって現在では入手出来ないものも多数ありますので、中古やオークション等を探す以外にありません。

 今回はお客様にお預かりしたSTMが珍しい仕様でしたのでご紹介しました。現在TLMをお借りしておりますが、記事にするにはもう少し時間が必要なようです。

 例によりまして、内容に誤りや記載のない情報等がありましたら掲示板やメールにてお知らせいただければ幸いです。

2006 7.13

“フェンダージャパンのミディアムスケールストラトキャスターについて”にはこちらから。