〜ムスタングT.O.M仕様〜

T・O・M仕様のムスタングです。 DG工房は基本的にコピーモデルは作らないのですが、ベーシックなモデルについては用意すべきと考えています。そのひとつとして試作品を作りました。

 以前、知人から譲り受けた逆反りしたショートスケールのネックを修理してムスタングを製作してみました。

 写真をご覧になっても分かると思いますが、いくつかノーマルのモデルと違う点があります。

 まずはブリッジです。チューン・オー・マチックにしました。フェンダー系のものより構造上ブリッジ上の弦高が高くなります。そこでジョイント部分に角度を付けました。

 次に、ピックアップを3シングルにして、スイッチを5ウェイのレバースイッチにして場所も変更しました。

 そしてコントロールパネルをなくして全てピックガードにしました。ルックス的にムスタングらしさからするとコントロールパネルがあるほうが良いのですが、一体化することでピックアップからジャックまですべてピックガード一枚に収まるのでピックアップ交換等が楽にできます。

 改造点は以上ですがルックスが結構違った感じになったのではないでしょうか。 

 ムスタングはボディ厚がストラトキャスター等と比べ薄いので、不要と思ったのでジョイント部分はDGカット(ヒールカット)はしていません。その代わりジョイントプレートを落としこんでバック面と同じ高さにしました。

 仕込み角をつけたのでポケットのエンドが深いのでヒールカットしたように薄くなっています。下の写真はアングルのせいですこし極端に見えますがヒール部の厚みの違いはよく判ると思います。

仕込み角とヒールの厚さの比較です。
ノーマルとのネックの角度とヒールの厚さの違いはこんな感じです

 個人的にはムスタングにコンター加工はないほうが好きですので、これには付けていません。ムスタングはボディが薄いのでシンクロ系は取りつけ出来ません。サイクロンの様にシンクロを付けてボディが厚くなれば必要かと思いますが、わたしは薄めのボディにコンター加工なしがムスタングらしい気がします。

 勿論お客様それぞれのアイデア、お好みによりご要望どうり製作します。ムスタングのサイクロン仕様も面白いのではないでしょうか。今回ご紹介しているムスタングのT・O・M仕様はオーダーサンプルとしてアイデアのひとつを提示しているに過ぎません。

DG製とフェンダーJ製のムスタングです。 右の写真は製作したT・O・M仕様と所有しているフェンダージャパン製のムスタングです。フェンダージャパン製もすでにオリジナルではありません。ピックアップはEMG81でスイッチはスライドスイッチの位置でレバースイッチにしています。ブリッジはケーラーに変更してピックガードはボディに近い色のアクリル板で製作しました。全体的に好きなギタリストの一人であるエイドリアン・ブリューをイメージしてみました。

 ケーラーはボディのザグリが浅くムスタング等のボディ厚の薄いギターに取りつけ可能です。ストラトには少々ゴツ過ぎる感じですが、ブリッジからボディエンドまでが長いムスタングにはマッチしています。ケーラーは軽いアームタッチと独特のサウンドにファンも多いようですが、現在とても入手しにくくなっているようです。

 フェンダージャパン製のムスタングは若干のビス穴は残りますが、元のパーツにするとオリジナルに戻す事も出来るようにしました。こんな感じで改造も承りますのでお問い合わせ下さい。

 またリプレイスメントパーツとしてボディ単体の製作もいたします。基本的にはギターを送っていただきセットアップしてお返しする形になります。

 フェンダージャパン製のムスタング(オリジナルの状態を含む)との比較です。製作したムスタングの印象としてはネックに仕込み角がついたせいか、テンション感のある音になったと思います。ノーマルのムスタングと比較しても低音弦は芯のある感じです。ブリッジが変わったことでサスティーンも向上しています。

 ブリッジの変更と仕込み角をつける事で目的どうりの効果が得られましたが、ここで゛テンション゛について私なりの理解を述べてみます。


 〜テンションと弦長について〜

 スケールが短くなるといわゆるテンションが弱くなります。いわゆると言ったのは張力とプレーヤーが演奏した時に感じるテンションとは必ずしも一致しないからです。

 ショートスケールを例にすると分かりやすいですが、先に説明した通りロングスケールの1フレットがナットになりますので、ロングスケールだと半音下げたチューニングでカポタストをつけた状態です。

 ナットの位置が変わりますので単純にショートスケールはロングスケールの半音下げのテンションではありませんが、弦長が短くなると同じ弦で同じ音程を得ようとするならば張力が弱くなると言えます。

 フェンダー系(ロングスケール)とギブソン系(ミディアムスケール)のギターを比較すると構造的に特徴があります。フェンダーはヘッドの段差のみで角度が無くギブソンのヘッドには14度から17度の角度があります。

 仕込み角(ボディとネックの角度)もフェンダーは無くギブソンは3度程度付いています。(’70年代のフライングVのような例外もありますが。)

 いずれもテンションの問題のみでなく、ルックスやパーツ等のデザインの違いも関係します。レスポールの仕込み角と音質についても議論があることを考えても、角度の違いによるテンションが音に影響するのは間違いありません。

 ムスタングはフェンダー製ですから、構造的にはヘッド、仕込みとも角度はありません。またギターの音質はそれ以外にも材質・ピックアップ・デザイン等によるところも大きいですし、ムスタングが多くのミュージシャン達の支持を得ていることからも一概に張力が大きいと音的に優れているということではありません。

 スケールとテンション、材質等のバランスが、それぞれのメーカー、ギターの個性であり、プレーヤーの多様な要求に応えていると言うことだと思います。

 また同じ仕様のギターでも、同じ方向性を持っていてもサウンドも弾いた感じも違いがあります。また同一のギターでもセッティングにより変わります。いずれにしてもテンションはギターの音質に変化を与える要因であることは間違いありません。