〜 STX−95 〜
リペアでお預かりしたストラトキャスターですが、当初は黒なので小ぶりに見えるのかと思ったくらい違和感がありませんでした。少しして工房で製作したSTMと同程度のサイズのモデルの横に置いて明らかにボディが小型な事が判ってて改めてボディシェイプを見直してSTMと同じなのに気付きました。
リペアのためにネックを外してポケットやネックのジョイント部分の品番を確認して、表記のモデルである事を確認しました。改めてカタログを確認してとてもレアなモデルである事が判りました。オーナーの方に確認させていただくと、やはり長らく探して入手されたと言う事でした。撮影した画像の使用をお許しいただきましたので、このモデルについて記載させていただく事にしました。
あまり馴染みのない品番ですが、PRO-FEELのラインアップにSTRと共に並んでいた一本です。STMのボディにロングスケールネックにフロイドローズユニットを搭載したモデルです。STRシリーズはシンクロトレモロモデル等のバリエーションがありますが、STXは確認する限りはこのモデルだけでカタログには’92年〜’94年の間だけ掲載されています。
STMと同型のボディにロングスケールネックを組み合わせたモデルと言いますとSTRシリーが思い浮かびます。ラウンドカットヒールに加えてシェイプアップカッタウェイと言う1弦側のカッタウェイ部分をピックガード側に斜めに落として演奏性を高める仕様を採用しています。ちなみに。この1弦側のカッタウェイを斜めにする仕様はSTMのフロイドローズ搭載のモデルにもありました。
フロイドローズ搭載モデルは一瞥しただけではSTMと区別がつけ難く、一時期掲示板でも話題になりました。PRO-FEELシリーズとしてSTRと共に販売されていたのがこのSTX−95になります。STMのボディにロングスケールネックを組み合わせたのはSTRと同じだと思いますが、微妙に仕様が異なっています。
元々はオールブラックパーツでマッチングヘッドのモデルでしたが、お預かりしたモデルはピックガードやパーツ類の変更がされています。カタログには「コンパクトなボディのSTMをリファインさせてボディにレギュラースケールネックをセットさせた、ハイブリッドマシン、STX。」と紹介されています。
イメージとしてはディンキーの様にストラトのボディを小型化させたモデルなのだと思います。ボディ材はストラトキャスターでは最も一般的なアルダー材です。ハイブリッドとはフロイドローズオリジナルを搭載していることや、ブラックパーツでソロイスト等の当時の流行のスタイルをストラトに取り入れたと言う事かもしれません。
お預かりしたモデルはSSHに変更されていますが、オリジナルはHSHでフロイドローズ搭載でオールブラックパーツというメタルに特化?しているとも言える仕様です。サイドジャックである事も含めてSTXの仕様は、近年のソロイストやディンキーを踏襲しているモデルにも引き継がれていると思います。
STRとの違いはシェイプアップカッタウェイがない事とサイドジャックでキャッツアイが取り付けられている事だと思います。。トレモロ裏パネルの落とし込みはありませんが、STRも同様だと思います。ちなみに画像のお預かりしたモデルはヘッドトップをリフィニッシュしていてスパロゴが入っています。その他クロムパーツに変更されていてピックガードとアッセンも交換されています。
ロックナットは裏止めです。 ネックポケット部分に品番があります。 ネックは1フレット20.5mm厚〜のUシェイプでSTMシリーズより一回り厚めです。ナットは42mm幅でR1が取り付けられています。この頃は上止めはまだ無かったように記憶していますが、ロックナット裏に穴が開いている仕様は時代を感じます。
ネックポケット部分にはポケットから出ている部分にシリアルがあって品番がポケット内に記載されています。ボディにも同様の品番が見られますが、この辺りはフェンダージャパン製の仕様です。お預かりしたモデルはリフレット等が施されてオリジナルではありませんでしたがが、カタログによりますと元々は305Rです。
本来はマッチングヘッドでブラックボディですのでヘッドトップもブラックでしたが、このモデルはナチュラルに変更されていてスパロゴが入っています。カタログには一度も登場していませんが、ブラックの他にスノーホワイトの記載があります。こちらもブラックパーツだと思いますが、ヘッドがマッチングヘッドなのかブラックなのか※1が気になります。
最近はお預かりしたモデルのように角度無しヘッドではナチュラルでも違和感がなく同様のモデルも多数ありますが、当時はブラックかマッチングヘッドが一般的だったように記憶しています。
※1 スノーホワイトのモデルもヘッドトップはブラックだった様です。
左はワーモス製のミディアムスケールコンバージョンネックです。 STMのボディなのでミディアムスケールネックを取り付けてみました。左側のネックはWarmoth製のミディアムスケールコンバージョンネックです。一般的なフェンダーのロングスケールボディに差し替えるだけでミディアムスケールに変更する事が出来るのですが、STXの場合はジョイントの位置が深くなるのでSTMとは少し感じが違います。
ブリッジの位置を変更せずにミディアムスケールのSTMボディにロングスケールネックを取り付けると最終フレットはヘッド側に移動しますのでカッタウェイが深くなる感じになりますが、STXの場合はポケットをそのままにして22フレットの位置を変えずにロングスケールネックを取り付けてブリッジの位置をエンド側に移動させています。
ブリッジの位置を合わせずにそのままロングスケールネックを組み合わせたのは、ボディ全体を一回りコンパクトにするという意図なのだと思われます。ですのでSTMと同一のボディですが、ミディアムスケールネックを取り付けると普通のストラトにコンバージョンネックを取り付けたのと同じ感じになってしまいます。
お預かりしたモデルでは唯一のオリジナルパーツと思われるラウンドカットヒールのプレートです。 最近はSTRシリーズもあまり目にしなくなった気がしますが、このSTX−95はそれ以上にレアなモデルだと思います。オールブラックパーツでサイドジャックという仕様はPRO-FEELシリーズでは同様に異色な印象の25インチスケール24フレット仕様のSHMに近い印象です。トラディショナルなモデルが基本だったフェンダージャパンのラインアップの中でPRO-FEELにラインアップされているギターはSTMやSTSから始まって意欲的で魅力のあるモデルが多数あったように思います。
STMから派生したモデルと言う事でSTX−95について記載してみました。’94年のカタログでは価格が品番と同じ95,000円でした。例によりまして記載に誤り等がありましたらご指摘いただきます様お願いします。
2016 7.15
こちらのページをご覧いただいた細田様より所有されているSWHの個体の画像のご提供をいただきましたので掲載させていただきます。リペアでお預かりしましたモデルはピックガード等が変更されてクロームパーツに変更されていましたが、こちらは外見的にはノブのが大きな変更点で概ねオリジナルに近いと思います。個人的にはシャーベルのディンキーとジェイクモデルを合わせた様なイメージになります。
先の記事ではヘッドトップはマッチングヘッドと記載しましたが、近年USAで復刻版?が発売されたSHMの様にヘッドトップはブラックで統一されていた可能性もありました。ご提供いただいたSTXの画像でボディと同色のマッチングヘッドな事を確認することができました。この画像でHSHのフロイドローズ搭載でオールブラックパーツというメタル的なイメージのモデルなのが再確認できると思います。
ボディカラーがSWHのバージョンです。 STXが掲載されているカタログのSTMのボディにロングスケールネックを組み合わせたSTRシリーズにはクロームパーツでほぼ同仕様のモデルがあります。その中でディンキーを意識してストラトキャスターを小型化したSTMのボディでサイドジャックに変更してオールブラックパーツと言うメタル的な仕様だと思います。基本的にはSTRシリーズと同じピックガード付きながらあえて品番を変えているのもその表れかもしれません。ちなみにボディ材はSTRやSTM等ではライトアッシュやバスウッド、ポプラでしたが唯一アルダーボディを採用しているモデルでした。
2020 10. 31 追記