TLMについて

 

 

 随分前にお借りしたのですが、予想と随分違っていたので色々と調べるうち時間が経過してしまいました。正直な話、テレキャスターについてはそれ程手にする機会もなく資料を調べる程度でしたので、100パーセントの自信はありませんが、私なりのTLMの理解を述べてみます。

 

〜 ネック 〜

 

 

 基本的な仕様はST−314やSTMシリーズと同じです。メイプル1Pまたはメイプル/ローズでネックの仕込はグリップ側からでヘッドからロッド調整をします。したがってグリップ側にはスカンクラインと言われるウォルナットの埋め木があり、ネックポケット側のロッドのエンドは比較的大きい円柱が表面まで露出していて、ティルトのイモネジを受ける様になっています。ヘッドにあるナットはロケットの様に飛び出しているのではなく、ダボのように見える部分がパイプ状になっていて、そこから5mmの六角レンチを差し込んでロッドを調整する様になっています。

 その他、小さめの5パイのドットポジション(アクリルまたはブラック)とギブソン風に指板のセンターに小さめのサイドドットが入っているのも同じで、ペグもゴトー製の同型のものです。ストリングガイドもカモメが5弦付近に2つあります。当然スケールはミディアムスケールです。フレット数は22フレットでエンドを延長するのではなくて、ひさし(ツバ)を出しているのも同じです。

 

パーツ等の構成はSTMシリーズと共通です。

 

 フレットはノーマル(細)フレットが打たれています。ナットは牛骨ナットで幅は40mmです。グリップ厚はSTMシリーズと同じで1フレットで約19mm、12フレットで約21mmでした。ただし、ブリッジが11mmピッチのものを搭載しているので、弦落ちしないようにネックエンドの幅は56mmでSTMより約1mm広くなっている為に、握った感じがやや太い感覚があります。

 塗装もSTMと同仕様で、ナチュラルの艶ありですが、ST−314の様に着色はされていません。上のネックエンドの画像をご覧いただくと判ると思いますが、露出していない部分はメイプルの材の色そのものです。お預かりしたモデルはかなり焼けて茶色っぽくなっています。シリアルナンバーもヒール部分に“MADE IN JAPANの下にアルファベット+6桁のシールが貼られています。モデル名のスタンプも同様です。ロゴはCBS以降の黒字にゴールドの縁取りで続いて太い文字でTELECASTERととあって、ボディ形状とマッチして’60年代末の感じに仕上がっています。 

 基本仕様は共通ですが、テレキャスターですから当然ヘッド形状が違います。ヘッドの形状自体は通常のテレキャスターと同じです。また、ネックエンド部分もラウンドしていなくてストレートです。 先に挙げたとおりエンド幅が約1mm広い為に薄いネックではありますが細いと言う感じはそれ程しませんが、ミディアムスケールですから通常のテレキャスターから持ち替えると違いは明らかです。  

 

〜 ボディ 〜

 

 

 以前、BBSでTL−314はST−314と同様にノーマルテレキャスターボディにミディアムスケールネックを組み合わせたもので、TLMは同様にSTMのようにミディアムスケールサイズに変更したボディになっているのではとの見解を書きました。それはTL−314のカタログ写真を見ると、明らかにピックガードとコントロールパネル・ブリッジの位置がずれているのが分かるためです。

 つまり、ネックエンドのフレットの位置を合わせて、スケールが短くなった分ブリッジをヘッド側に移動させるというST−314と同様の方法でノーマルテレキャスターボディにミディアムスケールのネックを組み合わせています。ST−314ではピックガードの外周を合わせてカットしていたのですが、TL−314はコントロールパネルとブリッジの位置は移動させていますが、ピックガードはその分をカットして形状を変えていなかったのでピックガードとコントロールパネル等のビスの位置のズレが生じてみえます。そのために注意深くノーマルのテレキャスターと比較すると、ブリッジの位置がスケールが短くなった分ネック側に移動したのが判ります。

  TLMは上の画像の通りノーマルのテレキャスターと比較しても全く違和感がありません。ボディの外周はいわゆるヴィンテージタイプに近く’60年代の形状と言えます。ボディトップから見て6弦側は17フレットでネックに接していますが、接する部分のカーブが’50年代ほど急でなく、1弦側のカッタウェイがネックポケットのサイドにスムーズに繋がっています。

 ネックでも触れましたが、TLMはロゴの入り方と合わせて、’60年代後半のCBS以降のモデルの感じです。’68〜’69年位の感じでしょうか。ちなみにTL−314のロゴはST−314と同じシルバーに黒の縁取りのカレントタイプが入っています。位置はもう少しヘッドの中央よりでモデル名等も小さな文字で入っているようですが、カタログの写真なので詳細は不明です。

 右は、ネック単体製作でお預かりしているフェンダージャパン製のテレキャスターとの比較です。ネックが短く、ボディカラーがブラックなこともあって大きさが随分と違うように見えますが、実際のところボディ自体はそれ程小さくなっていません。STM同様にスケールに応じて小型化されていると考えていたのですが、そうではないようです。DGテレキャスタータイプは、STM等と同じくスケールに応じてボディも縮小しています。念のため工房でサンプルとして使用しているテレキャスターボディをフェンダージャパン製のテレキャスターと比較しましたが、基本的な大きさはほぼ同じです。

 TLMとDGテレキャスタータイプのボディを比較してみると、明らかにTLMは大きいです。通常のテレキャスターと比較すると小型化していますが、スケールが短くなった比率で縮小したものではありません。仕上がったボディは木地の磨きや塗装の厚さにより微妙に個体差がありますが、お預かりしたTLMのサイズから、縮小した手法を推測してみようと思います。実際に図面を比較する訳ではなく、製品のサイズですから磨きや塗装の状態で多少のズレがありますので、オリジナルのサイズはザ・ロック・ギター・スーパーマニュアルの図面の数値も参考にしました。

 TLMとDGテレキャスタータイプの幅を比較すると数値はかなり近いので、それはスケールの比率で縮小した数値とも大体一致します。明らかに違うのは全長で、右の比較の画像を見るとブラックと言う事もあり小さめ荷は見えますが、ボディの縦方向はそれ程差が無いように見えると思います。数値を比較すると、通常のテレキャスターとDGテレキャスタータイプのちょうど中間位になります。

 TL−314はST−314と同じ手法でミディアムスケールに変更していると言う仮説を基に、TLMのボディの長さについて考えてみます。まず、ノーマルテレキャスターの最終フレットの位置を合わせてブリッジを移動させる方法でミディアムスケールネックの位置を決めます。そうするとブリッジの位置は当然ネックよりに移動します。これでTL−314と同じになるはずです。ボディの幅を見るとTLMはボディを縮小する手法ですが長さはそれ程縮小されていません。そこで、ブリッジがネック側に移動した分だけボディエンドを短くしてみるとほぼ一致しました。

 ボディのサイド部分の形状はほぼ通常のテレキャスターと一致しているように見えます。TLMと工房のテレキャスターのサンプルボディを比較するとカッタウェイからジャックまではほぼ同じです。TLMはジャックの角張った部分からエンド側がブリッジの移動分だけ短くカットされたような形状になっています。そこから一つの仮説を立ててみました。ただし、TLMのサンプルはお預かりして一本限りですし、TL−314は実物は見ていません。さらにはテレキャスターについても少々勉強不足がありますので、今後新たな個体を調べたりテレキャスターについて認識が深まって新たな事実が判明した場合に別の結論に至る事があるかもしれないことをお断りしておきます。

 TLMは、STMシリーズと同様に、スケールの比率でボディのサイズを縮小しているのは間違いないと思います。ただし、何らかの理由で長さはロングスケールと同等にする事に留めているのだと思われます。DGテレキャスタータイプは(ボディが軽量な場合は特に)ストラップを付けて構えた際に若干バランスが悪い印象がありますので、ストラップピンの位置をロングスケールと同じ位置関係にして対策した事が考えられますが、それ以外にも何か意図があるのかもしれません。

 また、全長をスケールの比率で縮小しない為に、全体的に形状を縮小する事はしないで外周を縮小した数値分だけ中央に寄せる方法を取ったのではないでしょうか。6弦側のラインは年代によって微妙にラインが変わりますのでポケットに接合する部分の形状を整えれば不自然にはなりませんし、1弦側のホーンは、STSの手法と同様にカッタウェイのラインはそのままに中央に寄った外周のラインと合わせてやや細くなった感じで形を整えているのだと考えられます。

 カッタウェイの内側の形状が同じであれば、最終フレットの位置が同じな事もあり縮小によって演奏性が変わることはありません。その辺りを踏まえて観察すると6弦側はストラップからポケットにかけては僅かに急な感じがしますし、1弦側のホーンはややスリムな印象です。ただし個体差と言えないほどでもなく比較的自然です。

 現段階での推測ですが、TLMのボディ形状の変更についてまとめてみます。まず、ミディアムスケールの変更は、ネックエンドから最終フレットの位置を合わせます。それに伴ってブリッジがネック寄りに移動しますが、ボディエンド部分をその長さをカットするように短くしてスケール位置からボディエンドの距離を同じにします。さらにボディの幅は縮小したサイズを基に形状を変えずに中央に寄せる形にしている。つまり完全にスケールの比率で縮小してはいませんが、小型化しているのではと考えられます。

 最後にボディ材についてですが、お借りしたブラックはバスウッドでナチュラルは木目がアッシュに近いセンが使われているようです。また、非常にレアなTCM−600はツブシですが、ハムバッカーPUの為かアッシュ材に近いセンが使われています。このモデルも非常に興味深いので情報がありましたらお知らせください。

 

 〜 その他 〜

 

   

 

 

 ジョイントは、通常の4点プレートが使用されています。ST−314と同様にプレートの下にクッションが取り付けられています。ティルト機能も装備しています。ザグリは通常のテレキャスターと同じです。ピックアップはHOTROD−5Tとカタログにあります。この“HOTROD”という品番は同年のカタログをみるとPRO−FEELシリーズというフェンダージャパンオリジナルの製品以外には搭載されていません。

 ザグリ等も特に変わった点はありません。ポットやレバースイッチはSTMシリーズと同等のものが使われています。レバースイッチは同型の3Wayのものです。ネックのエンド幅はブリッジが11mmピッチである事によりますが、ヴィンテージタイプではなくSTM等と同じタイプのサドルですが、やや長さのあるテレキャスター用のタイプです。個別にオクターブ調整できるタイプの選択はこだわりでしょうか。弦を通すボディ裏のブッシュはボディ面に縁の出ないヴィンテージタイプです。

 ピックガードはボディ形状に合わせた専用のもので3Pです。カタログを見るとナチュラル仕様もブラックの3Pのようです。STMシリーズは1Pのピックガードでも面取り加工がされていますが、こちらもこだわりでしょうか。また、ショップオーダー等以外は、ロゴもカレントタイプで、仕様がヴィンテージタイプでもいたずらに細部を踏襲しない一貫した姿勢は製作した時点でのスタンダードであるとの意思の表れの様に思えます。

 

 

PUや配列は異なりますがSTMと同等のパーツです。 11mmピッチです。

 

  お借りしたTLMを詳しく調べてみましたがボディの形状は予想と全く異なっていましたので、その縮小方法については色々と調べて仮設を立ててみました。NCルーター等機械での加工が殆どの量産品ですが、多少は個体差もありますし、図面での比較ではありませんが、ST−314からSTMへ変化したのと共にTL−314からTLMに品番が変更されたのですから、同様のコンセプトでボディにも変更がなされていると思われます。

 TL−314の実物を確認していないので、ノーマルボディに最終フレットの位置を合わせてのミディアムスケールネックを組み合わせたというのもST−314と同じ手法で製作されたのだろうというのも予測に過ぎません。ただ、TLMのグリップ厚がSTMとほぼ同じ事から逆に推測すると間違っていないように思えます。

 何れにしましても、TL−314TLMをお持ちで記事と異なるようでしたら、Room 314談話室(掲示板)やメールで御指摘いただければありがたいです。実際にどの程度の数が販売されたかは不明ですが、STMやSTS以上に珍しいモデルである事は間違いないと思われます。

 2006 8.4