STMについて

 

 

 ST‐314やSTSについては記事にしておりましたが、STMシリーズについては古川さんが所有されていたギターについて取り上げさせて頂いただけで、そのものについてをまとめた記事はありませんでした。

 お客様から比較的レアなフロイドローズ仕様のSTMをお預かりして、お許しを得ましたので記事にさせていただくことにしました。このモデルは、私が考えていたSTMの特徴とは異なる点がありましたので、STMの特徴と合わせてご紹介いたします。 

 記事の内容はリペア等でお預かりして実際に拝見したものと、手元にあるカタログ等のデーターによるものなので、完全なものではありません。現行モデルではありませんので、お探しの方の参考にしていただければと考えてまとめてみました。

 例によりまして、全ての時期の仕様等について理解しているものではないので、記事に不足な事誤りがありましたら、掲示板やメールでお知らせいただければ幸いです。


∞ ボディ ∞

 

 STMは、ストラトキャスターのボディにミディアムスケールネックを取り付けたST−314の後継機種として発表されました。ST−314のボディは通常のストラトキャスターボディにジョイント付近を合わせてミディアムスケールネックを仕込んだものでしたが、STMはスケールの比率で縮小した新設計のボディに変更されました。

 下は314とSTMのボディの比較です。ノーマルのストラトボディの314に対してSTMは弦長の割合で小さくなっています。注意して見ないと違いに気付かない程度ですが、バランス的にノーマルストラトボディでは大きすぎる私が構えると、その差は明らかに判ります。(こちらは見苦しいので画像は差し控えさせて頂きます。)

左がST−314で右がSTMです。比較するとSTMのカッタウエィ内側がコンパクトな印象です。

 模型と違ってパーツ類はそのまま流用する事が殆どである事と、楽器としての機能の基本的な部分も変えられない事等によって、単純に縮小するのではバランス等の問題がでてきます。ボディを縮小するのに幾つか方法はありますが、STMはブリッジ(スケール)とセンターラインを中心として縮小されているように思います。その為にブリッジとの距離が長いホーン部分はより大きく歪んだ感じになります。

 具体的には、ホーンがやや細く、カッタウエィの巾が狭まったような形状になります。同様の方法で縮小したDGストラトタイプは、そこからホーン部分の印象が出来るだけノーマルのストラトと変わらないようにアレンジをしています(DGSTは個人的にSTMのその部分に不満を感じて製作したものでした)。カッタウエィの形状はノーマルボディの314と比較するとSTMは、形状が丸くホーンがシャープな印象です。

左がSTMで右がDGSTです。 (STMのピックガード形状は少し形状を変えています。)

 OLDのストラトキャスターは、手作業による個体差が魅力の一つになっていますが、カッタウエィ部分の横方向への張り出した感じの形状は共通するものと思われます。国産のコピーモデルは、メーカーによりサンプルとなったモデルの個体差が微妙に感じられます。フェンダー製でも製造工場や生産時期の違いで変化しているようです。


 話をSTMに戻します。STMシリーズは大きく分けると、6点トレモロ搭載モデルと2スタッドトレモロ搭載モデルの2つに分類できると思います。便宜上6点トレモロを前期、2スタッドを後期と呼ぶことにします。ボディの形状自体は共通です。

 改めてSTMのボディに共通する特徴を挙げてみます。第一にミディアムスケールの比率で小型化されて入る事。そしてそれに伴いホーン部分の形状がやや細くカッタウエィの横の張り出し感が小さくなっている事でしょうか。そしてジョイントプレートがヒールレス加工(ラウンドカットヒール)に合わせて1弦側のネックよりが丸く削られたような形状になっていること。そしてトレモロ裏パネルの落し込み加工です。

  ただしこのボディはPro−FeelシリーズのSTRでも採用されています。STRはロングスケールですがフロイドローズ仕様の場合、STMとSTRは外見上の特徴が殆ど違いがない為に、スケールを確認しないと判別出来ません。

 2スタッドトレモロを搭載するモデルの場合は、STRはアメスタのブリッジでリセスも無いので、うっかりすると逆にボディ形状の違いに気付かない場合もあるかもしれません。コンセプトとしては、ロングスケールのままでボディをコンパクトにする事のような気がします。

 今回取り上げさせて頂いたフロイドローズ搭載モデルの場合は、一見してSTRと判別できる特徴がありませんし仕様も殆ど同じ機種があります。基本的には、STRはフロイドローズオリジナルでSTMはフロイドローズUですが、STRでもフロイドローズU搭載のモデルはあります。

 STMの前期型と後期型はトレモロ以外にも仕様に変更があります。左側が後期型(フロイドローズ搭載モデル)で右が前期型です。前期はいわゆる弁当箱ザグリですが、後期型はHSHザグリに変更されています。ボディの比較画像の後期型はフロイドローズ搭載モデルですが、2スタッドトレモロにもアップリセス加工がされています。

 アップリセスといっても、ベタ付け状態のセッティングで通常のフローティングした程度にアップ可能になるくらいでベースプレートの厚み位の約3mm程度の深さです。フロイドローズの場合はローリセスでアップ可能になっています。

 コントロール部分は11点止めも可能な様にビス部分の凸のあるタイプです。その他のトップ側のザグリは共通です。ピックガードは11点止め、8点止め共にあり、1Pの8点止めにも通常はない面取り加工がしてあり、最初にみた時は少し違和感がありました。

 コンター加工は、比較的大きめに統一されているように思えます。少なくとも見る機会があったものにつきましては、ほぼ同じ印象です。外周の面取り(R)加工の大きさも個体差はありますが、ザグリの形状の違い(製造時期)での特徴は特に無いように思われます。

 

  裏面は前・後期とも共通です。最大の特徴は、ヒールカットされた形状のネックプレートと、それに合わせて削られたポケット部分です。

 もう一つはトレモロ裏パネルの落し込み加工です。もしも中古楽器を見ていてボディトップから見て、カッタウエィ部分の形状に特徴がある点と、合わせて微妙にカッタウエィ部分が丸くなったピックガードの形状でSTMの可能性があると思った場合は、裏側のパネル部分に落し込み加工を確認できるとSTMである可能性が高まります。

 また、落し込み加工して取り付けられているトレモロ裏パネルは弦を交換する部分が大きく四角くカットされてるのも特徴です。そこからEND ROXが見えれば間違いなくSTMです。

 右の画像はボディトップ側の画像と同じく左が後期型で右が前期モデルです。ヒールカットは何れのボディにもありますが後期のフロイドローズモデルには、トレモロ裏パネルは落し込み加工がされていません。2スタッドトレモロ搭載モデルの場合は前期型と同様に裏パネルの落し込み加工はあります。

 フロイドローズユニットがローリセスで取り付けられているため、パネルを落とし込むと稼動範囲が大きい為に、スプリングが裏パネルに当たる為にあえて加工していないものです。

 残念ながら前期型のフロイドローズ搭載モデルはカタログでしか見ていないので、裏パネルの取り付けは確認できていません。リセス加工はしているようですので、恐らく同様になっていると予測していますが、オーナーや実際にご覧になった方がいらっしゃいましたらお知らせいただければ幸いです。

 前期型に搭載されているフロイドローズライセンストレモロのピッチは10.5mmなのか、あるいは後期と同じ通常の10.7mmなのかが不明です。何れにしましても、10.7mmピッチのフロイドローズU搭載のネックがロックナット以外の仕様はほぼ同一なので通常のフロイドローズライセンストレモロを流用したものの可能性があります。

 何れにしましても、オールドのシンクロは11.3mmピッチでネックエンドが56mm程度なので、それに比べれば弦落ちの危険は少ないので問題ないと思われます。ちなみに、私の所有する314のネックエンドは54mmしかありませんが弦落ちの不快感を感じていません。STMでは55mmが殆どですが、数本見た河合楽器のカスタムカラーシリーズのネックは極薄でネックエンドも54mmになっていました。

 ボディ材は前期型ではアルダーで製作されているものも少なくありません。カタログによるとポプラ材が多く用いられているようです。フロイドローズモデルは、柔らかいポプラ材ではスタッドが倒れてしまうのでバスウッドが使われているようですが、さすがに10年程度経過するとスタッド部分にトラブルを生じてくるようです。

 

 STMボディの外見上の特徴をまとめてみますと以下の通りになるかと思います。

 大きさや形状もノーマルのストラトとは違うのですが、中古楽器店等に並んでいても一見してスケールとボディサイズの違いが判るほどではありません。形状が明らかに違うホーン部分を比較してから、裏パネルとジョイントプレートの特徴を確かめるのが確実です。もう一つ、後に取り上げますネックのポジションの大きさの違いも判断材料になります。

 ただし、今回取り上げているフロイドローズ搭載モデルの場合は、STRシリーズと殆ど同じですので、スケールを確認しなくては判別するのが困難です。シースルー系の塗装はSTRと考えて良い様に思われますが、ツブシの塗装の場合は共通なのでボディの特徴だけで判断出来ないと思われます。

 


§ ダフネブルー §

 

 STM関連の記事を書くのに手持ちのカタログを調べていると、以前リペアで取り扱わせていただいて掲示板等でも話題になった“ダフネブルー”の750DMを見つけました。左1が990年のカタログの画像ですが、もし掲載が不適切なようでしたら御指摘いただければ削除いたします。

 ご覧のとおり経年変化した黄ばんでグリーン系にもみえるものを意図したものではなく、本来のダフネブルーとして製作されたもののようです。お客様の情報では店頭に並んでいる時からグリーン系?の黄変していたとの事でしたから、もしかすると逆にカタログと同じ色でオリジナルのものがあればレアである可能性もあります。

リフィニッシュした時に剥がした塗料です。

 上は同色の同モデルをリフィニッシュした際に剥がした塗料(面白いので保管していました・・・)ですが、トップコートののっていない顔料は薄いブルーでカタログの写真と同じ感じです。生産本数は不明ですが、それ程多数とは考えにくいので恐らくその際に製造した同色は全て同様のトラブルがあるものと思われます。

 オリジナルのダフネブルーでも経年変化によって同様になったものもありますので、GOサインが出たのか組み込み後に急激に黄変したのか、いずれにしましても興味深いです。ウレタン系の塗料は工場勤務していた時の印象ではトラブルが多くてあまり好きではありませんでした...。

 何れにしましても“経年変化したダフネブルー”の同モデルが出回って受け入れられているのもSTMであるが故か、最近はあえて出荷前から傷や塗料の剥がれまでオールドやアーティストモデルを再現した製品も多数あるので、見た目が受け入れられたのか色々な理由で選択されたものと思われます。黄変やそれに伴う色むらはトラブルですが、それがある意味カッコよさだったりするのがエレキギターの不思議なところでしょうか。

微妙なネタなので軽く読み流していただければと思います...。 

2006 7.13 追記