〜  STSのバリェーション 〜

 

 

 前回はラージヘッドのSTMをお客様のご好意でお借りする事ができまして紹介させていただけましたが、今回はゲネシスさんから興味深い情報を画像と共にいただきました。現在は所有されていないとの事でしたが、とても興味深かったのでメールでいろいろと伺っているうちに現在の所有者の方にご連絡していただきまして、現在所有されている方にお話しを伺う事ができました。さらに、その現オーナーのご好意で画像のギターそのものをお借りする事が出来ました。

 上が最初にゲネシスさんから送っていただいたSTSの画像ですが、ロゴをご覧いただくとお分かりの通り、逆版ではありません。最初はレフトハンドバージョンかと思ったのですが、それではロゴが逆さまです。つまり右用でリバースシェイプのSTSです。

 スモールヘッドではありますが、メイプル指板にホワイトボディは明らかにジミ・ヘンドリックスをイメージさせます。もっともバランス的にはスモールヘッドでもSTSには少し大きい感じなのでその意味ではスモールヘッドでも違和感がないように思われます。ジミのような巨大な手、長い指でしかプレイできない事を、右利きでしかも小さめの手のプレーヤーが体感できる事をコンセプトとしたようなモデルでしょうか。そういう意味ですとSTSはまさに打ってつけの素材です。

 現在のオーナーの方が調べられたところでは、イケベ楽器のショップオーダーで8本製作されたものとの事です。シリアルから’91〜’92年製造のものの様で、STSとしては比較的初期のものですしSTMのラージヘッドバージョン(リッチー風モデル)やスパロゴバージョン等のショップオーダーとは少々性格が違うもののように思えます。それでは、じっくりと詳細を見て行く事にします。

 

§ ボディ § 

 

 

ボディカラーはホワイトです。

 

 ボディは通常のSTSを完全に裏返した状態でザグリ等も変更がありません。ただ左用ではなくリバースボディであることはカッタウエィが深いホーンにエンドピンが取り付けられている事から判ります。また通常カタログに無い仕様の場合はポケットにその表記がありますが、今まで見てきた“ORDER”のスタンプではなく手書きで“カスタム オーダー”と記されています。

 ボディカラーは黄ばみの無い白ですが、’92年のカタログではSWH(スノーホワイト)が標準のようですので特別な色ではないようです。ちなみにカタログの画像のは白系のモデルは仕様にないVWH(ビンテージホワイト)しかないのも面白いです。お借りしたモデルは打痕からやボディの状態からみると比較的薄めの塗装で仕上げられています。ボディ材もカタログと同様ポプラ材が使われているようです。

エンドピンも右用に取り付けられています。 カットの大きさは、それ程変わりません。

 お送りいただいた画像を見てもしやと思ったのですが、やはりコンター加工は通常よりも浅く仕上げられていて、ジミヘンモデルとして’70年代の仕様を意識して製作されていることを窺わせますが、角度等は通常のカットと同一のようです。一般的に’70年代のコンター加工は小さく浅目ですが、個体差は’50年代よりも大きい印象で傾向としてはカットが小さく深いものとカットが比較的大きくて浅いものがあるように思いますので、この形状も特徴を捉えていると思います。

 興味深いのはラウンドヒールカットが左用になっていることで、当然の事ながらプレートも同様でボルト穴の面取りは左用になっています。あえて左用にラウンドカットヒールを採用しているのはリバースボディとして多数の右利きのプレーヤーと共に左利きのプレーヤーの購入も意識していたのか、STSの仕様に準じるためにあえて加工したのか等々興味深い仕様です。

 単なるリバースボディとしてのSTSシェイプであれば通常の4点プレートでの加工も可能だったと思われますし、逆のヒールカットでストレスを感じる様であれば敢えて通常の4点プレートの採用もありだったかとも思えます。

 とは言えジミ・ヘンドリックスが選択したように右用のモデルをそのまま左利きのプレーヤーが演奏したものを右用として製作したものであるならば、右用のSTSを完全に逆さまに製作するのが最も正当な選択だったようにも思われますし、左利きのプレーヤーからも受け入れられるのでレアなモデルで購入者の間口を拡げるという意味でも正解だったと思われます。もっとも本来の左用として使用するには改造が必要になるのですが...。

 

ノーマルのSTSと並べてみました。 カットの深さが違います。

 

 ノーマルのSTSのボディと並べると、完全にシンメトリックに左用として製作されたことが判ります。コンター加工は浅くなりますが、位置はほぼ同じです。左用ではなくジミ・ヘンドリックスを意識した右用のリバースシェイプですが、同時に後にご紹介するコントロール等の仕様はほぼストックのSTSと同じになっていることも興味深いです。

 

 

§ ネック §

 

 

 ネックは所謂リバースヘッドである他は、通常のSTSと変わりありません。305mmのショートスケールで250Rの指板にはノーマル(細)フレットが打ち込まれています。ポジションマークは5パイドットでサイドポジションもやや小さめのものが右用の側に入れられています。グリップ形状は若干フラット気味ですが、比較的丸く形成されています。22フレットで55mmに満たない幅に仕上げられている事もありとてもスリムな印象です。

 ロッドの仕込もこのシリーズの特徴であるヘッドにダボ風に仕上げられている部分から5mmの六角レンチで調整するようになっています。40mm幅のナットは牛骨が取り付けられています。テンションピンも左用の1・2弦に取り付けられていますので5・6弦に通常のカモメが取り付けられていますが、僅かにナット寄りの様にも思われます。ただ、テンションピンの位置に関しては比較的個体差があるのでその範囲内とも言えます。ペグはSTSと同型のゴトー製のシャーラータイプの左用が取り付けられています。

 ヘッドトップには“フェンダー”のカレントタイプのゴールドのロゴのみで、“オリジナル コンター ボディ”や“ストラトキャスター”のシールはありません。その代りという訳ではないでしょうが、ヘッド裏に“カスタム エディション”のロゴがあります。’92年のカタログのエクストラッドで紹介されているロゴと同一なのでそのオーダーシステムによるショップオーダーギターという事でしょうか。

 

ヘッドトップはロゴのみです。 ’92年のカタログ等に見られるロゴです。ペグはSTS等と同型の左用です。

 先に’91〜’92年製造と申し上げたようにポケット部分にMADE IN JAPANと共に貼られているシリアルはL+6桁です。そのシリアルが貼られているネックポケット部分を見ると判りますが、元々はナチュラル塗装です。全体的に一見イエローナチュラルに見えるくらい黄ばんでいますが、意識的に黄ばみやすい塗料を使っていたと思われます。日に当たることがなかったのでオリジナルの塗装の様子が窺えるネックポケット部分には、通常は品番等がスタンプで記載されていますが、このネックには手書きで仕様が細かく書き込まれています。