§ パーツ等 §

 

 

 

 コントロールの配列は通常のSTSと同じですが、左用ですから通常に構えると全てが逆になっています。エンドピンは右用としてカッタウエィの深い方に取り付けられていますが、思ったほどバランスが悪い事もなくテレキャスターより違和感がありませんでした。エンドピンはシャーラーロックタイプですが、恐らくオリジナルではないと思われます。ピックガードはホワイト3Pの8点止めで通常と同じリバースシェイプのものが取り付けられています。

 PUは、お預かりしたSTSは、フロントとリアがディマジオのHS−3がマウントされていますが、配線の様子等から、オリジナルは通常のHOTROT5−Sのセットでコントロール等も全てノーマルのSTSと同じものを装備していたと思われます。HOTROT5−Sは、フラットポールピースなので右左に何れでも問題ありません。

 トーンコントロールが、中央付近でクリックが入るのが不思議ですが、サーキット自体は通常のものだと思います。実はこのモデルで初めて左用を右でセッティングしたギターを弾いてみたのですが、カッタウェィも然ることながらそれ以上にコントロールが邪魔で扱いにくい印象でした。個人的にはトレモロアームはそれ程気になりませんでした。むしろ慣れるとこの方が使い易いようにも思えます。

 ノブの位置そのものも煩わしいですし、全てが逆に操作しなくてはならないので左ハンドルの輸入車を試乗させてもらって交差点を曲がる際にワイパーを動作させてしまった事を思い出してしまいました。トーンコントロールとジャックは予想以上に邪魔に思えてエルボーカットの有り難味を再確認しました。

 ジョイントプレートは先にご紹介した様に左用にカットが入っています。当然のことながら形状は通常のラウンドカットヒールのプレートを裏返した形状で、ティルトの為の調整穴も空いています。

 右の画像では不鮮明ですが、通常は“Fender”ロゴがプレートの中央に刻印されています。左側のプレートに薄らと右上がりに見えるでしょうか。このモデルのものにはそれがありません。当然右用を裏返して使用したわけではないので、裏側にもロゴはありませんし、ネジ穴の面取り加工もされています。仮にロゴを入れるにしても居心地が良くない感じなので“F”のみが合いそうです。

 

 

〜  トレモロユニット 〜

 

 

 最初にこのSTSの画像を見て気になったのは、やはりトレモロでした。通常の10.5mmピッチのトレモロというだけでも珍しいくらいですから、左用のエンドロックス付となれば所謂“レア”なパーツといえるかもしれません。

 基本的にはENDROX−G−1のいわゆる10.5mmピッチの2スタッドトレモロの左用ですが、パーツ構成が少し異なっています。上の画像はお預かりしているSTSのトレモロユニットとの比較ですが、ベースプレートの上から見ると形状や構成パーツは全く同じです。ただしスタッドの間にあるFENDERの刻印はありません。

 ボディ裏側から見えるブロックは、通常はブラックですが、このモデルはTHE TENと同じブラスです。大きさは6点のSTMのものよりひと回り大きいくらいです。弦の裏通し穴と並んでエンドロックスが見えます。

 通常のSTSと同様に落とし込まれて取り付けられているトレモロ裏パネルを外すと、2スタッドで稼働範囲が大きいのにも拘らずカットが無いばかりか、厚み自体もひと回り厚くなっているブロックが現れます。

 落し込み加工をされた裏パネルを外して見ると、比較するまでもなくひと回り大きいブラス製のブロックなのが判ります。こちらにもフェンダーやエンドロックスの文字はありません。

 エンドロックスは右用の6弦(アーム側)がネジ穴のみになっていますが、ゲネシスさんが入手された時から無かったとの事です。これは特に意図は無くて、本来あったものが欠落しただけだと思います。ブロックのエンド側にイモネジが追加されてネジを固定するする機能も追加されているようですが、お預かりしたものはエンドロックスそのものを使用した痕跡がありません。

 ジミ・ヘンドリックスモデルということでそれ程アーミングは重視していないということでしょうか。2スタッドなので稼働範囲は大きいのでフローティングさせるとアームアップはリセスザグリの恩恵を十分に受けることができますが、アームダウンはあっけなくアームの余裕の残したままブロックがエンド側のザグリに当たり稼働範囲を終えます。

 スケールが短くなったストラトキャスターの音質を考慮して、低音域やサスティーンのハンディが演奏し易さ以上に強調されないようにという事でしょうか。まずこのトレモロが先にあって、そのために企画されたギターである可能性もあります。ただエンドロックスを装着している事や10.5mmピッチである事を考えると、STMやSTSシリーズを前提にして製作されたトレモロであると思われます。

 

ブラス製のブロックはカットが無いだけでなく厚みもあります。

 

 ブラス製でひと回り大きく10ピッチトレモロのブロックを強化したようなものなので、重量はノーマルの2スタッドの比ではなく6点プレートのものも遥かに凌ぐ質量です。STSに搭載されている2スタッドトレモロとほぼ同じ形状のベースプレートでブラスのブロックの“THE TEN”は約350gですが、これは約380gもありました。ちなみに通常のENDROX−G−1は約280gで、6点トレモロのエンドロックス付きは約315gでした。

 2スタッドトレモロなので、当然アップ側にもリセスザグリの底までスムーズに動きますので、(アップリセスに)ベタ付けにすると通常の6点トレモロと同等かそれ以上のダウン側への稼働範囲があります。その様なセッティングと使い方を前提としてブロックの質量を大きくする事のメリットを優先させたのかもしれません。

THE TENのブロックとの比較です。

 トレモロのブロック以外は、ほぼノーマルのSTSのリバースシェイプにしたギターですが、浅めのコンター加工やトレモロの稼働範囲に拘らないブロックの大きさは、明らかにジミ・ヘンドリックスを意識したモデルであるように思われます。PEリスナーでなくてもジミに憧れてギターを手にするプレーヤーにも受け入れられる事をコンセプトとしている事が伺えます。

 体型は近くともあの巨大な手と指の長さを備えている人はそれ程は居ないと思われますし、通常の指の長さのプレーヤーがジミの感覚でプレーできる様にというコンセプトを具現化するには、STSはぴったりだったと思います。何よりSTSはフェンダーブランドでストラトキャスターと呼ばれる事を許されたモデルです。


 今回は、ゲネシスさんならびに現オーナー様のご好意により、大変に珍しいSTSのリバースモデル(ジミ・ヘンドリックス仕様)をご紹介させて頂きました。改めましてお二人のご好意に感謝します。

 量産ラインにカスタムオーダーとして少量生産されたものですから、仕上がりそのものはあくまでも量産品です。通常のSTSやSTMとそれ程変わりませんが量産工場に勤務していた経験から言うと、大量に流れている中で特殊な仕様の製品を同等に仕上げる事の大変さは十分に理解しているつもりですので、このクォリティは素晴らしいと思います。

 こちらのモデルはコレクターズアイテムとなるような仕様ですが、お預かりしたギターは全体的に綺麗ではありますが弾き込まれているのが印象的でした。何れにしましても大変貴重なギターである事は間違いないと思われます。

 

 ご覧になってくださった方の中にこれと同型のギターをショップで新品をご覧になったとか購入されたという方でこのモデルの品番や価格をご記憶の方がいらっしゃいましたらお知らせいただければ嬉しいです。

 STSは、年々値上がりして’94年にはSTS−65という品番になり65,000円になっていました。同年のレフトハンドのラインアップは右用に12,000円プラスの価格が付けられていました。少なくともトレモロとジョイントプレートは少量生産のパーツなのでもっと高い価格設定だと想像しますが、如何でしょうか。

 ご紹介した内容はカタログ等の資料と推測を元にしたものなので、誤りや明らかにされていない事実等があるかと思われます。実際にこのギターについてご存知の方がご覧いただけておりましたら、情報等をお知らせいただければと思います。

 

2006 4.29